FX業者の取引モデルについて、いくつかのタイプに分けて考えてみます。トレードの勝ち負けには直接関係しませんが、長く為替相場と付き合うつもりなら抑えておいたほうが良いポイントだと思います。

まずはできるだけシンプルなビジネスモデルから取り上げてみます。

タイプ1:呑み業者(バケットショップ)


100年ほど前のアメリカにはバケットショップと呼ばれるギャンブル場のようなものが存在しました。

ここで客は株やコモディティ(貴金属や穀物など)の値動きを予想して上か下に賭けるのですが、業者側は裏付けとなるカバー取引を行わない(呑み行為)ため、客の儲けは全て業者の損、客の損は全て業者の利益になるという明確な利益相反構造がありました。

実質的にはギャンブルと同じ仕組みです。

カバー取引をしないため、市場の変動によるリスク(マーケットリスク)は全て業者が負います。

つまり、客の利益が大きくなりすぎると業者が破綻するというビジネスモデルです。日本にはこのモデルで営業するFX業者は存在しないため、本稿では深く追求しません。(海外FXの一部はこのモデルかもしれません。)

タイプ2:NDD(ノー・ディーリング・デスク)

NDDとはNo Dealing Desk(ノー・ディーリング・デスク)の略で、業者がマーケットリスクを取らないビジネスモデルです。

語源的には順番が前後しますが、こちらのほうが仕組みがシンプルなので先に説明します。(ただし、システム開発はこちらのほうが遥かに複雑なようです。)

NDDは客の注文を業者がそのままインターバンクなどのLP(リクイディティ・プロバイダー、流動性供給元である銀行やプロ向けブローカー)に流すモデルであり、呑み業者とは対極的に全ての注文をカバーに流す仕組みです。業者と顧客の利益相反はなく、業者はマーケットリスクを負いません。

NDD最大の特徴は、業者がマーケットリスクを取らないという点であり、その他の特徴はここから派生したものです。

マーケットリスクを取らないというのは、ロング(買い)であれショート(売り)であれ、業者自身がFXのポジションを持たないという意味です。

つまり、業者はカバー先銀行などのLPに流せる場合だけ客の注文を約定させるということで、トレーダーと銀行との取次業者と言い換えることができます。

NDD方式のメリットとしては、客との利益相反がない、どんなトレードスタイルでも受け入れる、業者の倒産リスクが低いなどが挙げられます。(倒産リスクが低いだけで、倒産しないわけではありません。某FX業者はNDDモデルでしたがマーケットリスクで債務超過に陥りました。)

逆にデメリットとしてはスプレッドを業者の裁量で狭くできない、業者の判断で約定させられない、本当にNDDが正しく運用されているのか外部から検証しづらいなどのポイントがあります。

なおNDDはSTPとECNという2種類に分類できます。

ここでは説明を省略するので詳しく知りたい人は調べてください。ちなみに、NDDはEE(External Execution、外部約定)と呼ばれたりします。最近の海外FX系サイトではA-Bookと呼ばれたりします。後述するDDはIE(Internal Execution、内部約定)、DI(Dealer Intervention、ディーラー介在)、あるいはB-Bookとも呼ばれます。

タイプ3:DD(ディーリング・デスク)

DDモデルとはDealing Desk(ディーリング・デスク)モデルの略であり、業者がマーケットリスクを取るビジネスモデルです。

「マリー」というのは注文を相殺する行為を指すブローカー用語です。

例えば同量の買い注文と売り注文が客から同じタイミングで出された場合、業者は同時に注文を成立させることでスプレッド分を収益にすることができます。

ドル円を例に取ると、客Aが100.00円で売り注文を出して、客Bが100.10で買い注文を出した場合、同時に注文を成立させればスプレッドの0.10が業者の収益になります。

実際には同タイミングで同量の注文が来ることは殆どないので、どの程度余裕をもたせるのかという部分に業者の裁量の余地が生まれます。

そして、このマリー分からはみ出た部分をカバーに回すことになります。どのようにどれだけカバーに回すかは業者の裁量で、カバーしなかった分はFX業者のウェブサイト上で「店頭FX取引に係るリスク情報」の箇所に「未カバー率」として表示されています。

為替では分かりづらい人もいるかもしれないので、身近なものに例えてみます。

ハンバーガー屋(カバー先)でハンバーガーが500円前後の変動価格で売られており、A君が客の立場で、X君がFX業者の立場だったと仮定します。

NDDにおいてA君(客)がハンバーガーの買い注文をX君(業者)に出した場合、買い注文を受けた時点ではX君は約定させることができません。

実際にハンバーガー屋で品物を確保してからA君の注文は成立します。仮に500円で仕入れて手数料を2円上乗せすれば、A君は502円でハンバーガーをロングしたことになり、この2円が業者にとって収益になります。

DDの場合、X君はA君から注文を受けた時点で約定させることができます(ここでは502円で売ったとします)。

その後にハンバーガーを買いに行って500円で買えれば業者は4円の収益ですが、逆に505円で買うことになれば3円の損になります(これが業者にとってのマーケットリスク)。

さらに、横から出てきたBさんが「家族がハンバーガーを買ってきたけど、食べたくないので売りたい」と言っていれば、A君の買い注文とマリーすることができます。

Bさんから498円で買ってA君に502円で売れば、業者はカバー取引をせずに(ハンバーガー屋に行かずに)4円のマリー収益を得ることができます。

DDのメリットはNDDの逆で、業者の裁量でスプレッドを狭くできる、業者の判断で約定させられるなどがあります。

逆にデメリットとしては収益を圧迫する客を排除することがある、業者の倒産リスクがある、客との利益相反が起こるなどがあります。

なお、マリーをしないDD業者もあり得ます。その場合、客からの注文を受けた後、マリーの判断をせずにカバー先に流すことになります。このモデル(非マリー型DDモデル)の場合はマリー収益がない分、スプレッドを狭くすることが難しくなります。NDD業者に似てきますが、客の注文を業者の判断で約定させられるという点が異なります。

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